一雨ごとに暖かくなり、花の蕾はつぎつぎと膨らみ、土の下では虫たちも動きはじめる季節となりました。
3月の華やかな年中行事といえば、女の子の健やかな成長を祈る3月3日の雛祭が挙げられます。
雛飾る手の数珠しばしはづしおき 瀬戸内 寂聴(せとうち じゃくちょう)
この句の作者は小説家、瀬戸内晴美として活躍し、1973年に出家して尼僧となりました。
その後は寂聴尼として仏道を修めながら執筆活動も続けています。これから飾るお雛様に傷をつけないように、手に掛けていた数珠をそっとはずしたのでしょう。肌身離さずつけている数珠を膝元に置き、雛人形を大切そうに箱から出して、一つずつ丁寧に雛壇に飾り置いてゆく姿が見えます。一年に一度しか飾ることのないお雛様への気遣いと愛おしさが、数珠をはずすという仕草から、おのずと伝わってきます。
雛祭には、お雛様に桃の花を活け、菱餅、白酒やあられなどをお供えして、ちらし寿司や蛤のお吸い物を作ってお祝いをします。
蛤のにこにこ濡れて売られをり 今村 妙子(いまむら たえこ)
この句の着眼点は、にこにこ濡れて、にあります。濡れていると発見したことで、魚屋の店先に獲れたての蛤がキラキラ光ってお皿に盛られている景が見えます。貝殻は据わりが悪いですから、一皿の中でカチカチと触れ合い笑っているようにも思えますし、さらに、加熱された蛤がパッコンと開いて大笑いしている様まで浮かんできます。この季語が蜆や浅蜊だとしたら、ここまでの想像は膨らまないでしょう。季語をよく見て特徴をつかみ、発想を豊かにすると、笑うはずのない蛤の笑い声まで聞こえてくる訳です。
寒くなく暑くもない春の朝は、その心地よさに、ついつい寝過ごしてしまいます。それを表現した季語が朝寝です。
朝寝して羽化の気配を楽しめり 丹治 美佐子(たんじ みさこ)
寝足りてはいるものの、ついつい寝床に未練が残り、なかなか起き出せない日曜日の朝。ぐずぐずしているとその内に又うつらうつらとしてしまいました。その繰り返しを幾度か楽しみ、やっと意を決して蒲団をバサリと跳ね除けました。冬とは違い、朝の空気はなんとも快く全身を包んでくれました。蝶となる日を待つ蛹は、このようにうとうととしながら、羽化のタイミングを窺っているのではないかと感じて出来た一句です。
6回にわたり、俳句を通して日本の季節の紹介をさせて頂きました。日本独特の文芸である俳句に少しでも興味を持って頂ければ嬉しく思います。またこの誌上でお目にかかれる機会を楽しみにしております。
平成21年3月1日 『未来図』 丹治 美佐子
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